【著者プロフィール】
長谷川 真人・理学療法士。2001年New York University修士課程合格。日本理学療法士免許取得後、渡米。2005年5月 Certified Therapeutic Recreation Specialist資格取得、のちにニューヨーク州理学療法士免許取得。2008年3月〜現在は東京大学医学部附属病院所属。

アメリカの理学療法士になるには

 PT・OTにとって、人生の一つの大きな転機となるのが、各免許を取得した瞬間ではないでしょうか。

 アメリカでPTとして勤務するには、各州で別々にPT免許を取得する必要があります。
 この国は、一般的にも色々な独自の法律、条令が州毎で存在したりしますが、各州によってPT免許取得への諸条件が定められています。

 一般的には、理学療法修士または専門博士課程の学校(主にアメリカ国内)を卒業している事と、全米統一の250問のコンピューター式4択試験に合格する事等の条件があります。

 またPT業務に関する基本的な法律試験合格を必須としている州もあります。この状況は外国人PTがアメリカPT免許を取る時には更に複雑となり、免許を比較的取りやすい州と取り難い州とがあります。

 例えば、カルフォニア州では、外国人PTが、同州のPT免許取得の前に現地でPT臨床研修を一定期間終了する事が必須条件とされていますが、ニューヨーク州ではそのような条件はありません。

 外国人PTに対する一般的な条件として、自国のPT免許を持っている事、自国で一定のPT教育課程を修めている事(足りない科目は取り直す事も可能)、TOEFLでの一定点数(IBTで89、Paperで560点以上)等が挙げられます。

 アメリカでPTになる為には、現地のPT学校に行くのが一番手早い方法かと思いますが、私のように日本PT免許を取ってから、アメリカPT免許(私の場合、ニューヨーク州)を取り直すことも可能です。

 どちらにしろ、手続きが複雑で時間も費用も掛かるので、興味のある方は、十分な下調べ、準備をしていく事が大切です。今回はいくつか参考になるホームページを紹介しますので、ご参照下さい。

National PT Examに関する情報提供
http://www.fsbpt.org

外国人PTがアメリカPT免許取得する為の手続きの情報
http://www.fccpt.org

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アメリカの理学療法とリハビリテーション

 アメリカには様々な職業があり、各職業の特徴をまとめているのが、U.S Department Labor(米国労働局)です。この団体のホームページ(http://www.bls.gov/oco/ocos080.htm)に、アメリカの理学療法士(PT)の特徴が掲載されています。

 大まかに内容をまとめると、PTは高齢社会に伴い、就職率も良く、将来的にも継続した高就職率が望める。米国全体のPTの6割は病院、またはPT開業クリニックに勤務し、あとのPTは高齢者介護施設、ディセンター、外来クリニック、訪問リハビリ、小中学校、教育・研究機関、スポーツ施設、個人ベースで勤務しているとされています。興味深いことに、5人に1人がパートタイムで勤務していると記載されています。

 同ホームページによるとアメリカのPT平均年収は2006年時点で66,200ドル(1ドル100円で計算すると約662万円)となっていて、全米の平均的な給与(約482万円)よりやや高い額になっています。

 アメリカのPTは結構な高給取りかとも思われますが、現地の税金等が高いらしく、実際に手元に残る額はそうでもないみたいです。現地で何人かのPTと話した際に、金融関連のビジネスと比べるとPTの給与は全然少なく、お金儲けを目的ではPTはやっていけないと言っていたのを覚えています。

 ただ、勤務時間が柔軟で、大抵定時に帰ることが出来、安定した収入、福利厚生が備わっていて、やりがいがある仕事と言うことで、アメリカのある調査で満足度の高い職業を調べた結果、PTは3位になっていました。この当たりは、日米共通している事が多々あるような気がします。

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アメリカのリハビリテーションにおける理学療法士の役割

 アメリカでの理学療法士は、急性期から予防的アプローチに至るまでリハビリテーション分野での立場や責任が大きい気がします。患者さんや周りの医療スタッフからの期待も多く、理学療法のはっきりとした結果を求められます。また、何かPTに関する事故があった際に訴訟問題に対処出来るように、損害賠償保険に入る事が強く推奨されています。

 実際の業務内容は日本の理学療法と似ている部分も多くありますが、アメリカでは急性期理学療法が盛んで、脳血管障害発症後や整形疾患術後に直ぐにPTが介入します。急性期の入院期間は約1~2週間ですので、短い間に安全で効率の良い理学療法を提供する事が求められています。

 大抵の患者さんは、急性期後の亜急性期ケアを提供する施設に行き、そこで更に、最大で約3ヶ月、一日3時間までの集中した理学療法、作業療法、言語療法を受け、自宅退院を目指します。この種のケアは、急性期病院等に比べ、コスト削減にもなるので、年々需要が拡大しています。

 また外来のPTクリニックでは、主にMedicareという公的高齢者用医療保険と各医療保険会社により、PT実施費用の多くが払われます。よって、これらの団体が認可する治療方法を実施しなければならず、その治療方法はEvidence Baseで有るべきで、科学的証拠のない治療方法に対して、保険費用が適応されない事もあります。

 最近では、Primary Care Provider(プライマリーケア提供者)として、Medicareのもと、医者からの処方無しでもPT評価、治療を受けられるDirect Accessを認める州が44州になり、更にリハビリテーション分野におけるPTの役割が広がっています。

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アメリカの専門理学療法分野

 理学療法は色々な分野に関わる事が出来、研修会や自己学習等を通して各分野で専門性をつける事が大切だと思います。アメリカでも様々な専門理学療法分野があります。

 アメリカでは、理学療法士になるまでは、全般的な理学療法分野を勉強し、平均で約30週間の実習も様々な分野で行っているようです。免許を取るまでは広く浅く勉強、実習経験して幅の広い理学療法士になる事が望まれています。

 免許取得後、専門理学療法分野としてAPTAが支援しているセクション(Section)が、18分野で、急性期ケア、水治療、心肺系、電気治療・褥創ケア、教育、連邦政策、高齢者、ハンドリハビリテーション、保健政策・管理、ホームケア、神経、癌治療、整形外科、小児科、開業、研究、スポーツ、ウーマンズヘルスに分かれています。

 各セクションにはAPTAのメンバーなら幾つでも入る事が出来ますが、セクション毎の年会費を支払う必要があります。各セクションが独自に活動し、定期セミナー開催に加え、学会誌やニュースレター発行、各ホームページ、メーリングリストを活用した情報交換を活発に行っています。

 専門理学療法分野での2,000時間の臨床経験とコンピューターによる選択式試験に合格すると専門理学療法士としてAPTAから認定を受ける事が出来ます。認定される分野は、心肺系PT、臨床電気生理系PT、高齢者PT、神経系PT、整形外科PT、小児PT、スポーツPT、そして2008年からウーマンズヘルスPTが追加されました。2007年時点では、全米で7,573人の専門理学療法士がいるとの事です。

 皆さんはどの分野に興味がありますか?

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アメリカの理学療法研究について

 研究とは、基本的には新たな発見を行う作業ですので、今までの研究を振り替えるために多くの文献を読み、その上で実験等を行っていくので、時間も労力も掛かります。

 アメリカでは、本格的なPT研究は大学院又は研究所を起点に行われ、研究をまとめる人は、PTといえども、Ph.D.という博士号を有した方がほとんどです。

 又、博士号には、Ed.D.(教育博士)、Sc.D.(科学博士)もあり、これらいずれかの学位取得が研究者への道のりとなっているようです。全米には、51のPT大学院がPh.D.課程を有し、新たな研究に日々、取り組んでいます。

 一方、臨床のPTも研究には大いに関心があります。日々刻々と変わるPTや他の関連医療現場で役に立つ情報を諸研究から得ようとする姿勢が強く、APTAは毎週のインターネットニュースにて最新の研究を必ず紹介しています。

 APTAが毎月発行しているPhysical Therapy(http://www.ptjournal.org/)は国際的にも科学性の高い論文を掲載した雑誌として有名です。

 最近では、Randomized Control Trial(RCT)、無作為化比較試験の論文が多く、研究に没頭出来る環境ならではと感心してしまいます。

 今年3月には外来診療を想定したCI療法(Constraint induced movement therapy)によるRCTで良好な結果を出したという興味深い研究も出されています。

 他にも、大規模な意識調査、評価尺度の検証、各障害の予後予測などに関する大掛かりな研究や100近い文献分析に基づいた症例報告の論文も掲載され、アメリカのPT研究分野は多岐に渡っています。

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