国家試験で問われる専門家の最低水準知識量

 国家試験は医師、看護師、PT、OTのようにいくつもの専門職を分けて実施されます。これは受験生がそれぞれの専門知識量の最低限度を備えているかどうかを厚生労働省に判定されているという見方ができます。

 「人間一人あたりの知識量が限界を超えたとき専門が分化する」という、人間の知識保有量の限界による専門分化説が、ノーベル経済学賞受賞者であるHerbert A. Simon氏の著書『システムの科学』に記されています。氏は専門家をExpert、Master、Grandmasterに分けて、その知識量を文字通り量的(正確には計れないので構造的に)に示しています。ここでいう知識量の単位はchunk(チャンク)で、氏の定義に従えば、どんな専門家でもGrandmasterの知識量は50,000チャンクと定義されています。

 Simon氏が示したように、5万もの言語的または動作的な知識の塊を修得するにはおよそ10年の歳月が必要で、最低3年の修学年限ではよほどの人物でなければGrandmaster に物理的に到達できない計算です。

 PT・OTの入口である国家試験受験の時点では15,000チャンクを限界値とすれば、PT・OTは、卒後約7年を費やしてようやくGrandmasterということでしょう。これは3年または4年の教育を受けて、臨床家になってから6〜7年の臨床経験を経てようやく一人前に仕事ができるという道のりの情報量として考えると妥当なことかもしれません。

 努力家が学習に10年費やして、まだ専門家に到達できない領域は分化する。即ち専門が2つ以上に別れていくか、個人の知識保有量では賄えないので他人に頼るか、書籍のような外部記憶に頼るようになるといわれるのがこの仮説です。では、15,000ものチャンクをPT・OT国試受験生の修学年限から想定した限界的知識量とするなら、国家試験に合格する言語的な知識量はどの程度でしょうか。

国試のキーワード数と専門家の知識量

 過去10年間に出題された問題文と選択肢から、図表を除いて専門用語だけを抜き出し、これをキーワードとして数えてみました。キーワード数はPT・OT共通である「基礎」とそれぞれの専門を、第41回〜第45回の5年分と第46回〜第50回の5年分とに分けて、第51回と比較してみました(表2)。

国家試験のキーワード数

 第41回〜第50回までの10年間に出題された問題文と選択肢から抽出したキーワードの年間平均個数は、基礎817個、PTは730個、OTは786個でした。キーワード一つを説明できる知識量を1チャンクと数えると、国試で問われている言語的知識量はおよそ1,500チャンクです。過去5〜10年分の既出問題から受験勉強をする場合、文字量としては約2,000〜3,000個のキーワードの記憶量に匹敵します。

 勤勉な受験生が3年間、平均4時間、空想にふけることなく完全に集中した勉強を毎日続けてようやく修得できる言語的知識量(動作的な知識量も語彙に換算して)の限界値を15,000語とすると、国家試験では毎年その10分の1程度が問われている計算です。

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