【著者プロフィール】
霍 明(ふぉー・みん)姫路独協大学 医療保健学部理学療法学科 准教授(元 国際医療福祉大学・理学療法学科 講師)

1. 中国の人口

 国家統計局が発表した2005年中国国民経済・社会発展統計公報によると,中国の総人口は2005年末時点で13億756万人,前年末より768万人増加した。そのうち都市部の人口は5億6212万人,農村部が7億4544万人,男性 6億7375万人(全体の51.5%),女性 6億3381万人(同48.5%)であった。また,昨年の出生人口は1617万人で,出生率が12.40%,死亡人口は849万人で,死亡率が6.51%だった。人口の自然増加率は5.89%となる。(駐日中国大使館のホームーページより)

中国の人口構成

図1 中国の人口構成

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2.高齢化・少子化

 中国でも,少子高齢化が急速に進んでいる。1982年には0~14歳人口が全体の33.6%を占め,65歳以上は4.9%にすぎなかったが,1990年になるとそれぞれ27.7%,5.58%に変化し,1999年には25.4%,6.9%となり,高齢化社会に突入した。65歳以上の高齢人口比率は2028年に14%,2038年に20%になるとの予測もあり,一人っ子政策の定着や核家族の増加に伴い,家族や家庭内で高齢者の生活を支えるのが困難になりつつある。(文献:中華人民共和国リハビリテーション専門職養成プロジェクト短期調査団報告書 p.14  国際協力事業団 医療協力部 2001.5)

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3.中国の高齢化の主な特色

1) 高齢者の絶対数が多く,かつ,高齢者増加率が高い。
 中国は既に1億人に近い高齢者を抱えている。特に農村部で高齢者の絶対数が多い。

2) 各地域によって高齢化の状況が大きく異なる。
 65歳以上人口比率が全国平均(7.1%)を大きく上回っている地域がある一方(上海11.46%,江浙省8.92%,江蘇省8.84%,北京8.42%,天津8.41%等)で,中西部等を中心に同比率が低い地域がある(例えば,寧夏自治区4.47%,青海省4.56%,新疆自治区4.67%,チベット自治区4.75%等)。
都市部では独居老人の増加,女性の就業の一般化,失業の増加等により高齢者の家庭内扶養が困難になるケースが増加しているが,農村部においても農業収入の低さ,農業余剰人員の増加,離村人口の増加等により,扶養力が低下し,都市部及び農村部を通じて高齢者間題が顕在化しつつある。

3) 先進諸国では,工業化,都市化が進行した後に,高齢化が進行する経緯をたどるが,中国は総体として発展途上状態のなかで高齢化社会に突入している。こうした社会経済状況下で,高齢化社会に対応した社会的支援が求められている。

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4.中国の医療

 中国の1,000人当たりの医師数は1.5人,病床は2.4床となっている。北京,上海,天津,重慶などの大都市をはじめ,各省,自治区の中程度の都市にも数多くの総合病院があるだけでなく,腫瘍,心臓脳血管,眼科,歯科,漢方医,伝染病などの専門病院もある。中国人の平均寿命は71.8歳であり、主な死因はガン,脳血管疾患,心臓病などである。
 中国は2003年から新しいタイプの農村協同医療制度 - 重病医療費の統一プール制度を発足させた。この制度は,個人、集団および政府がそれぞれ一定の医療費を負担する原則に基づいており,受診・入院した農民に,比率の異なる補助金が供給されるしくみで,2010年までに全国に普及する計画である。また,重病を患った貧しい農民に医療救助を行う医療救助制度を検討しており、2005年末までに全国で普及する見込みで,医療救助基金は各クラス財政の支出と社会各界の寄付によって調達されることになっている(2004年時点:駐日中国大使館のホームページより)

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5.疾患構造

 一般的に,経済・衛生水準の向上により感染症等の発病率が減少してきている一方,悪性腫瘍,脳血管障害,循環器系の疾患が増加し,先進国型の疾患構造に徐々に近づいている。都市部では慢性疾患が多い。他方,農村部では,肺結核を含む感染症,新生児感染症等が依然として多く,感染症及び非感染症の両者の対策が必要となっている(図2)(2003年中国社会保障情勢概要報告)。

人口10万人あたりの中国の死因別の死亡率

図2 人口10万人あたりの中国の死因別の死亡率

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6.理学療法士の教育

 中国では理学療法士(PT),作業療法士(OT)という資格制度は存在しない。1999年に医師資格が整備されたが,PTやOTについては,衛生部において資格制度の整備の動きはまだみられない。リハビリ医師,あるいは看護師から転職し,理学療法・作業療法などを行うことが多い。
 PT養成校は、大学10校,短期大学10校,専門学校19校であり,主に2002年、2003年に設立したものが多い。推定定員数は3,000人前後である。(文献:丸山仁司:中国における理学療法学教育への国際協力. PTジャーナル 38(12): 1-7. 2004)。近年社会需要の増大に伴い,定員数の拡大,学校数の増加が急速に進んでいる。
 PTになるための道は2つ挙げられる。1つは,外国に留学や研修することである。もう1つは,リハビリテーション技術研修コースの専門教育を受けることである。現在,国内にリハビリテーション治療士は約2万人がいるが,国際的な基準にあわせると,最終的には約30万人が必要と考えられる(PT約18万人,OT約12万人)(文献:李林:国外物理治療師的培訓情況及其対我国的啓迪 中国康復理論与実践 8(5):316-317.2002)。

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7.PTの現状

 理学療法の対象疾患の約半数は,「脳血管障害」である。中国のPTは他の医療職種からの転職が多い。1施設におけるPTは不足しており,PTの需要人数(希望数)は1施設あたり1.9±1.7名となっている。現職PT人数2.0±4.5名に対して充足率は51%である。中国のPTに対する社会的認知度は低い(文献:霍明:中国における理学療法士の実態調査.理学療法科学.19(4):269-274, 2004)。

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8.PTの対象疾患と対象障害

 筆者が行った実態調査で,理学療法の対象疾患を多い順に5位まで回答してもらい,1位を5点,5位を1点として集計した。1位は脳血管障害で49.4%と最も多く,全体に対する割合も26.2%で最多となっている。
 理学療法対象障害の各順位に占める割合は,対象疾患に関連した片麻痺,関節可動域障害,筋力低下等が上位を占めた。理学療法の対象となる年齢は40~59歳が47.3%で全体の約半数を占めた(文献:霍明:前掲書)。

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9.PTの社会的認知度

 「名前は知っている」9.8%,「内容を知っている」17.1%,「名前・内容とも知っている」8.5%,「どちらも知らない」63.4%という結果から社会的認知度は低いといえる(文献:霍明:前掲書)。

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10.PT数

 日本の人口1万人あたりの理学療法士数は1.6名で,現在は供給不足の状況である。中国では,本研究の結果からみると,1施設平均2名で,全国凡そ5600施設があるので,全国の理学療法士数は約13,000名と推定できる。人口1万人あたりの理学療法士数は0.1名で,極めて少ない状況である。すなわち,中国におけるPTは質・量ともにまだまだ不足しているのが現状である(文献:霍明:前掲書)。

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