【著者プロフィール】長谷川 真人
2001年New York University修士課程合格。日本理学療法士免許取得後、渡米。2005年5月 Certified Therapeutic Recreation Specialist資格取得、のちにNew York州PT免許取得。現所属は東京大学医学部附属病院

まえがき

 海外でリハビリに関わる際に必須となるのが、医療英語の知識だと思います。このコラムでは、医療英語について習得方法や役に立ちそうな情報をお伝えしたいと思います。

 英語を学ぶ際に、Reading、Writing、Speaking、Listeningとありますよね。日本人にとって比較的得意とされているのが、ReadingとWritingで、日本の義務教育の中で、文法、読解を中心に英語教育がなされてきた為といわれています。

 確かに自分自身が留学した際にも、他の英語能力に比べ、読み書きはまあまあ出来たことを覚えています。逆を言えば、SpeakingとListeningは日本人が弱い分野をされていて、日本人が英語でコミュニケーションを取りづらい大きな理由となっていると思います。これは、日本の日常生活で英語に触れる機会が少なく、実際に使う機会が少ないことが大きいかと思います。

 医療分野においてもこの傾向は当てはまるみたいで、国際学会に参加しても、日本人は発表内容の理解は出来ているのですが、発言を全くしないパターンが多いことがあります。もちろん、語学力に加え、その分野の専門知識、学会等の場で積極的に発言することに慣れていない等、色々な要因があると思いますが…

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それぞれの分野に応じた対策を

医療英語の習得には、それぞれの分野に応じた対策が必要かと思います。

 Readingに関しては、専門用語を覚えることは勿論、英語で書かれた医学論文を読むことが大切です。現在では図書館に加え、インターネット上で、医療系の英語論文が手軽に読めるようになってきました

 Writingに関しては、実際に論文を英語で書いて、出来ればその内容をNativeの英語を理解する方にきちんと直してもらう機会を何回も持っていくことが必要かと思われます。

 SpeakingとListeningに関しては、メディアを活用することで生の英語を聞き、話す機会を増やすことが出来ると考えられます。ラジオ英会話やビジネス英会話、テレビで留学等の英語放送に加え、英語の医療系の映画やドラマを見ることは専門英語の理解に、とても役に立つでしょう。またPodcastを利用すれば、様々な英語の情報が手に入り、ジャーナルのサマリーをダウンロード出来る場合も多いようです。最近ではSkype等を利用してインターネットでの英会話練習の機会も増えているようです。

 英語能力向上全般にもいえることですが、まずは日常の生活に少しずつ医療英語に触れる機会を取り入れていくことが、医療英語習得の第一歩かと思われます。

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メディア利用1: Medline Plus

 医療英語習得で大切なことは、一般英語能力の向上だけでなく、専門用語の習得があります。日本語でも医療、リハビリに関する専門用語を覚えるのは容易ではないのに、それらを英語で覚えていくのは本当に大変なことではないでしょうか。6年間の米国生活をした私自身、正直言って、まだまだ英語の専門用語で分からないものが沢山あります。

 では専門用語を効果的に覚えていくためにはどうしたら良いでしょうか?私は、インターネットを積極的に活用しています。今の時代は、インターネット上で医学辞書が使えるようになっていますので、リハビリ関連の英文を読んでいて、分からない単語があると、直ぐにインターネット上で調べるようにしています。出来れば単語帳を作り、新しく調べた用語を何度もみていくと次第に専門用語を暗記出来るでしょう。

 更に踏み込んで専門用語を覚えるには、Medline Plusというホームページを利用することをお勧めします。Medline Plusは米国のNatinoal Library of MedicineとNatinoal Institute of Healthが一般人向けに作成している医療教育ウェブサイトで、色々な疾病、障害に関する包括的な情報が掲載されています。例えば、Stroke(脳卒中)というトピックに対して、概要(原因、疫学、治療、予防方法など)、リハビリ、言語、栄養に関して、研究、関連団体等の情報が掲載されています。一般人にも理解出来るよう、分かりやすい英語で説明されていますので、英語の勉強にも、専門用語の取得にもとても良い教材かと思われます。

 Medline Plusホームページの中にVideos & Toolsという機能があり、こちらでは、特定の疾病、障害について、音声付の説明スライドが公開されています。各スライドごとのナレーションが字幕として放映されるので、音声を聞きながら字幕を読むシャドーイングを行え、より効果的な医療英語学習が出来るでしょう。シャドーイングしていくだけでも、医療英語能力が大きく成長していくと思われます。頑張っていきましょう。

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メディア利用2

 皆様は、日々英語に触れる機会を作っていますか?島国で一部の人々しか海外の方々と多く接する機会がない、日本人にとって英語の習得は、なかなか難しい課題といえます。このような状況の中、メディアの活用をお勧めしてきていますが、今回は、より相互的な医療英語を学ぶ機会をご紹介します。


 まず英国に本拠地を持つPhysiobase.comというホームページの中にある、The Physio Forumです。このホームページでは、インターネット上で事前に登録をすることによりPTや患者さんが自由に質問を書き込め、それらに対する答えを別の方々から頂くことが出来ます。いわば、インターネット上でのディスカッションが行われていて、PT自身の患者さんについての相談や学生国家試験対策や患者さんからの腰痛の相談などなど、多彩なトピックに溢れています。一週間に1トピック読んで理解して、実際に発音して話してみると結構良い医療英語の学習になると思われます。もちろん、皆さまがトピックを提供して、一緒にディスカッションしても結構です。

 次に紹介したいのが、APTAホームページに紹介されているPTJ Podcastサービスです。Podcastはパソコン上で再生出来、I Podを持っていれば、無料でダウンロードして、いつでも聞くことも出来ます。毎月掲載されるPhysical Therapyというジャーナルの各論文内容をまとめたものやAPTAの著名なPT達のディスカッションや理学療法に関する最新情報を聞くことが出来ます。生の英語に触れることが出来、Listening/Speaking能力向上にとても役に立つと思われます。

 今まで幾つかのメディアを利用した医療英語上達法をお伝えしましたが、他にも様々な方法によって医療英語学習が可能だと思われます。最近、英語の上達法について、知り合いから尋ねられました。英語に触れられる環境に自分の身を置くことも大切ですが、一番大事なことは絶対に学んでやろうと思う強い気持ちと行動ではないかなとその時は答えておきました。皆様はどう思われますか?

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コミュニケーションとロールプレー

ここからは、より実践的なSpeakingを中心とした医療英語習得方法を考えていきます。皆さんで、英語で外国人と話したことが無い方はきっといらっしゃらないと思います。その時を思い出してみると、全く話が通じ合えませんでしたか?恐らく、完璧な英語を話せなくとも、身振り、手振りで何かしら話が通じたのでは?

 英語でのコミュニケーションの際は、言語だけではなく、目線、口調、ジェスチャー等の非言語的な意志伝達も大切になってきます。Speakingにおいては、単語、文法力の要素以外に、これらの非言語的な要素も含めたコミュニケーション能力が重要なのです。まして、医療英語では、対象が何らかの障害を持っている方なので、母国語でのコミュニケーションを取る際ですら難しい場合があり、より高い能力を求められるでしょう。

 では医療英語でのコミュニケーション能力を高めるにはどうしたらよいでしょうか?個人的には、ひたすら英語を使ってコミュニケーションを取る機会を作ることだと思っています。これは日本ではなかなか出来ないので、友人、家族、同僚などと英語によるロールプレーを行う方法を推奨します。医療場面のある人物役になりきって、会話をしていきます。例えば、PTと患者さんになりきり、問診や治療の練習をします。


 PT:   “How is your back pain?” (腰痛はどうですか?)

 Patient:  “It still hurts” (まだ痛いね)
 
 PT:  “Oh, really? Has your pain got worse?”(そうですか、更に悪くなっていますか?)
 
 Patient: “No, it's getting better” (いいや、良くはなってきているよ)


という具合に実際の場面になりきりながら、医療英会話の練習をしていきます。その際は、出来るだけはっきりとイントネーションをつけ、発音に気をつけると良いでしょう。会話の場面は、インターネットや映画から興味を引いたものを持ってきても良いと思います。このようにロールプレーを通して、より現実に近い状況で英語を使っていくことが大切かと考えられます。

 日本人同士の拙い英語で、最初は恥ずかしいかもしれませんが、その気持ちを乗り越えて、言葉を伝えようとする姿勢を持つことが、医療英語習得の第一歩かもしれません。日々努力していきましょう。

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これまでの英語学習の経験からお伝えしたいこと

 このコラムもいよいよ最後となりました。英語について更に興味が湧いたり、実際に英語学習量が増えたりした方はいるでしょうか?もしそうならば、こちらとしても嬉しいものです。加えて、まだ、何も行動を起こしていない方は今からでも遅くないですよ。

 基本的に日本人にとって英語はある一定のレベルまでは鍛えれば鍛えるほど向上していくものだと思っています。どうしても普段の生活から英語に触れる機会が少ないのですが、その分、英語を学べば学ぶほど、身についていくと思います。今までは、日本で行える色々な英語方法をご紹介しましたが、これらの中から自分にあった方法を毎日地道に続けていくことが大切かと思います。

 今回は私が現地でリハビリ施設に就職してから英語学習の経験をお伝えしたいと思います。ニューヨーク大学院卒業後、現地の高齢者専門リハビリ施設で勤務を始めましたが、それまで持っていた英語の自信があっという間に無くなりました。院では、コースシラバスなどを通して事前に話し合う内容が決まっていたのですが、職場ではそうは行きません。常に話題が変わり、その場で意見を求められるので、総合的な英語能力が必要になってきます。実は、就職して暫くは、同僚、患者さん、家族などの英語が完全に理解できず、こちらの英語も相手に分かってもらえないこともあり、結構苦労しました。
 
 入職して1週間後に、ボスが
Masato, Do you understand what I am talking about?
(私の言っていることが分かる?)
と心配されたこともありました。取り敢えず、その場ではYesと答えましたが・・・

 こんな状況でしたが、いったん働いた以上、毎日英語を使わざる得ません。分からない時は、正直にCan you say it again?(もう一度言って下さい)やDo you mean....?(...はこういう意味だよね?)等、聞き返しながら、コミュニケーションを進めていった気がします。また、私から話す時は、要点をまとめて、シンプルな言い回し、英文を使うように意識しました。幸い、職場の方々は私の完璧でない英語でも温かく受け入れ、理解をしようと努めてくれていました。そうこうするうちに、次第に職場環境にもなれ、コミュニケーションも英語で十分取れるようになって行きました。結局この職場には3年半いましたが、その間で、医療英語能力は大いに伸びたと思っています。今思えば、①英語を嫌でも使わなければならない環境にいた、②分かりやすく英語を伝える努力をした、③分からないことは正直に聞いていった等といった姿勢が良かったのかもしれません。

 最近は企業の国際化が切に求めれらているようです。色々な手段で世界が繋がってきている現代社会では、日本国内だけで全てを行っていくことはなかなか難しいみたいです。日本のリハビリ界では、英語を使う機会はまだ少ないかもしれませんが、5年、10年後はどうなるか分かりません。ぜひこの機会に、将来に向けBrush-up your English!!

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